母も離婚している。叔母も離婚している。祖父母も、実際にはあまり仲のよい夫婦ではなかった。
家族の歴史を振り返ったとき、「なぜ、うちの家系は離婚が多いのだろう」と感じることがあります。
自分自身も結婚生活に悩んでいると、ふと不安になるかもしれません。
「もしかしたら、私も母と同じ人生になるのだろうか」
「離婚しやすい家系というものが、本当にあるのだろうか」
結論から言うと、離婚が多い家系で受け継がれている可能性があるのは、離婚する運命ではなく、夫婦関係についての価値観や、問題が起きたときの反応、家族の中で担ってきた役割などです。
ただし、離婚の世代間連鎖には、経済的な環境や結婚時の状況、個人の特性なども関係しており、家庭で学んだ行動だけが原因とは限りません。
家系心理学では、家族の中で繰り返されてきた関係のあり方を「家系の脚本」という視点から読み解いていきます。
大切なのは、家系の中で何人が離婚したのかという結果だけではありません。
その離婚に至るまでに、どのような夫婦関係があったのか。
そして、家族の中では何が当たり前とされていたのか。
そこに目を向けると、これまでとは違ったものが見えてきます。離婚が多い家系を調べるとき、最初に考えたいのは「離婚した」という事実と、「離婚に至った理由」を分けることです。
例えば、祖母は長年の不仲によって離婚し、母は夫のお金の問題で離婚したとします。そして娘も、夫との話し合いができないことに悩んでいる。
三人の問題は、一見すると別々のものです。
ところが、もう少し詳しく見ていくと、祖母も母も、自分の気持ちを伝えられず、限界まで我慢していたことが分かるかもしれません。
娘もまた、夫に不満があっても「私が我慢すればいい」と考えている。
こうなると、離婚という結果よりも、その手前にある関係のあり方に共通点が見えてきます。
家系心理学では、こうした繰り返しを「関係の脚本」として考えることがあります。
もちろん、これは一つの見方です。家族に離婚が多いからといって、必ず同じ心理的な原因があるわけではありません。
では、夫婦関係の中では、どのような脚本が受け継がれる可能性があるのでしょうか。
例えば、祖母が夫に言いたいことを言えない家庭で暮らしていたとします。
祖母にとっては、家庭を守るために我慢することが当たり前だったのかもしれません。
その姿を見て育った母親も、夫に不満があっても自分の気持ちを後回しにする。そして、その娘も同じように、相手の機嫌を優先するようになる。
三人とも、結婚した相手は違います。生きている時代も、家庭の状況も異なります。
それでも、「不満があっても自分が我慢する」という関わり方は似ていることがあります。
本人は「母のようにはなりたくない」と思っているのに、いざ夫婦で問題が起きると、自然と同じ反応をしてしまうのです。
子どもは、両親の夫婦関係を見ながら育ちます。
例えば、父親が怒ると母親が黙る。喧嘩をしても仲直りの話し合いはなく、何日か経つと何事もなかったように生活が戻る。
そのような家庭で育った場合、意見が違ったときにどう話し合えばよいのか、経験する機会が少ないことがあります。
結婚後、夫に不満を感じても上手に伝えられない。話し合おうとしても感情的になり、最後にはお互いに黙ってしまう。
そして、問題が解決しないまま次の問題が起きる。
こうしたことが重なると、夫婦の間に少しずつ距離が生まれていきます。
重要なのは、夫婦喧嘩をすること自体が問題なのではなく、意見が違ったときに、二人がどのように向き合っているのかということです。
家系を三世代ほど振り返ると、家族の中で似た役割を担っている人が見つかることがあります。
祖母は家事や子育てを一人で背負っていた。
母も仕事をしながら家庭のことをほとんど引き受けていた。
そして娘も、気づけば夫に頼ることができず、自分だけで頑張っている。
こうした家庭では、「誰かに頼ることは迷惑をかけること」「自分が頑張らなければ家庭が成り立たない」という考え方が身についている場合があります。
もちろん、家族のために努力すること自体は悪いことではありません。
しかし、自分だけが負担を抱え、助けを求められない状態が続けば、夫婦関係は苦しくなっていきます。
「夫婦とは我慢するもの」
「男性は仕事を優先するもの」
「家庭の問題を他人に話してはいけない」
こうした言葉を、親や祖父母から聞いたことはないでしょうか。
子どもの頃から繰り返し聞いていた言葉は、大人になっても判断の基準として残ることがあります。
反対に、「結婚生活がうまくいかなければ、すぐ別れた方がいい」という考え方が伝わる場合もあるでしょう。
どちらが正しいという話ではありません。
大切なのは、今の自分が何を基準に夫婦関係を考えているのか。その基準を、本当に自分で選んでいるのかということです。
実際に、親の離婚と子ども世代の離婚には関連があるのでしょうか。
これは単なる言い伝えではなく、社会学や心理学の研究対象になっています。
2019年に『社会学評論』に掲載された吉武理大氏の論文「離婚の世代間連鎖とそのメカニズム」では、日本の全国調査データを用いて、親の離婚経験と子ども自身の離婚との関係が分析されています。
その結果、親が離婚を経験している場合、子ども自身も離婚を経験する傾向が男女ともに確認されました。また、教育達成の低さや早婚が、その関連の一部を説明する可能性も示されています。
さらに、2018年に学術誌『Psychological Science』に発表されたスウェーデンの研究では、養子縁組に関する大規模なデータを用いて、離婚の世代間連鎖における遺伝的要因と養育環境の影響が検討されました。
その結果、養子の離婚経験は、育ての親よりも生物学的な親の離婚経験と関連していることが明らかになりました。研究では、遺伝的要因の関与を支持する一方で、養育環境の影響についても一部の証拠が示されています。
これらの研究は、離婚の世代間連鎖が、単に親の夫婦関係を見て育つことだけでは説明できず、社会的・経済的な条件や遺伝的要因など、複数の要素が関わる現象であることを示しています。
つまり、離婚の世代間連鎖は、単純に「親が離婚したから子どもも離婚する」「親の夫婦関係をまねしているから離婚する」という話ではありません。
そして、研究が示すのはあくまで集団における傾向です。特定の人が将来離婚することを予測するものではありません。
ここで家系心理学の視点が役立つのは、家系から未来を予言することではなく、自分の夫婦関係に影響しているかもしれない、無意識の前提や行動に気づくことです。
「父親に似た男性と結婚してしまう」
「母親と同じような結婚生活になってしまう」
こうした話を聞いたことがあるかもしれません。
しかし、人は必ずしも親と似た相手を選んでいるわけではありません。
むしろ、夫婦それぞれが育った家庭で身につけた関わり方が、結婚生活の中で重なり合うことがあります。
例えば、妻は「不満があっても我慢する」という関わり方を身につけていたとします。一方、夫は「家庭では自分が決めるもの」という考え方の中で育っていた。
すると、意見がぶつかったときに、夫は強く主張し、妻は自分の気持ちを引っ込めることがあります。
その状態が繰り返されると、「強く主張する人」と「我慢する人」という関係が固定されていくかもしれません。
妻はあるとき、気づきます。
「私、母と同じことをしている」
結婚した相手は父親と違うはずだったのに、夫婦の関係は両親によく似ている。
ここで注目したいのは、「誰と結婚したのか」だけではなく、「二人の間にどんな関係が生まれているのか」ということです。
ただし、相手の威圧的な言動や暴力を、我慢する側の反応が原因で生み出したと考えるべきではありません。相手の行為の責任は本人にあります。
ここは、特に大切なところです。
「母も離婚しているから、私は絶対に離婚しない」
そう決意している人もいるかもしれません。
もちろん、夫婦関係を大切にしたいという思いは尊重されるべきものです。
しかし、離婚をしないことだけが目的になると、どれほど苦しい関係であっても、無理をして続けようとする場合があります。
実際には、離婚しなかった夫婦が必ずしも幸せだったとは限りません。
祖父母は離婚しなかったものの、何十年も会話がなかった。母は結婚生活を続けたけれど、いつも自分の気持ちを押し殺していた。
そうした家庭もあります。
一方、離婚することで安全を確保し、自分の生活を立て直せた人もいるでしょう。
だから、離婚することが失敗で、離婚しないことが成功という単純な話ではありません。
本当に大切なのは、離婚という結果ではなく、自分がどのような関係を生きたいのかを、自分の意思で考えられることです。
暴力や脅迫、経済的な支配などがある場合には、話し合いを無理に試みるより安全の確保を優先してください。
家系の流れを見直すために、特別なことから始める必要はありません。まずは、これまで自分の家庭で当たり前だと思ってきたことを振り返ってみてください。
自分と配偶者、両親、祖父母について、分かる範囲で夫婦関係を書き出します。
結婚、別居、離婚の有無だけでなく、日頃の会話や役割分担、困ったときの対応も記録します。分からないことを無理に埋める必要はありません。
「誰が離婚したか」だけで終わらせず、その前に何が起きていたのかを見ます。
例えば、長年の不仲、お金の問題、親族との関係、過度な我慢などです。同じ離婚でも事情は異なるため、決めつけずに整理することが大切です。
家族の中で、いつも我慢する人は誰だったでしょうか。
家庭の決定を一人で引き受ける人はいなかったでしょうか。
困っていても助けを求めず、一人で頑張る人はいなかったでしょうか。
自分自身にも似た反応があるなら、それが今の生活で役立っているのかを考えてみます。
「夫婦だから我慢しなければならない」
「家族なのだから分かってくれるはず」
こうした考えが浮かんだら、それが本当に自分の望む関係なのかを確かめてみてください。
安全に話し合える相手であれば、「私はこう感じている」「このことは一緒に考えてほしい」と具体的に伝える練習もできます。
いつも一人で抱えていたことを相談する。意見が違ったら、すぐに諦めず落ち着いて話し合う。限界まで我慢する前に、必要な助けを求める。
すぐに相手や夫婦関係が変わるとは限りません。
それでも、今まで無意識に選んでいた反応に気づき、別の行動を選ぶことには意味があります。
家系の流れを変えるとは、過去を消すことではありません。これからの自分に合った関わり方を選び直していくことなのです。
研究では、親の離婚経験と子どもの離婚に統計的な関連が報告されています。ただし、個人の将来が決まるわけではありません。本人の経験、生活環境、夫婦の関係など、さまざまな要因が関係します。
家族に離婚が多いという事実だけで、霊的な因縁があるとは判断できません。家系心理学では、まず家族の価値観や役割、問題への向き合い方など、具体的に確認できる関係のパターンに注目します。
必ず分かるわけではありません。三世代の夫婦関係を比較することで、共通する価値観や役割に気づく手がかりになります。ただし、似た出来事があっても、同じ原因とは限りません。
あります。過去の結婚生活を責めたり、離婚を後悔したりするためではありません。これまでの関係を振り返り、これからの人間関係で何を大切にしたいのかを考えるための一つの方法です。
家族を振り返ると、似たような出来事が何世代にもわたって続いていることがあります。
祖母は夫に言いたいことが言えなかった。
母も、自分の気持ちを後回しにしていた。
そして、自分も結婚生活の中で同じように我慢している。
そうした共通点に気づいたとき、家系から何かを受け継いでいるように感じるかもしれません。
でも、そこで「だから私も同じ人生になる」と考える必要はありません。
家系は、自分の未来を決める運命表ではないからです。
祖父母には祖父母の時代があり、両親には両親の事情があります。そして、今の自分には、自分の人生があります。
親から受け取ったものをすべて否定する必要はありません。受け継いでよかったものもあれば、今の自分には合わなくなったものもあるでしょう。
それを見極めることが大切なのです。
離婚が多い家系に受け継がれているのは、離婚するという決まった未来ではなく、関係の中で繰り返されてきた価値観や役割なのかもしれません。
そして、それらは気づくことで見直していくことができます。
もし家系を振り返るなら、「誰が離婚したか」だけではなく、一度こう問いかけてみてください。
「この家族では、夫婦はどのように愛し、怒り、我慢し、問題に向き合ってきたのだろう」
そこに、今まで見えていなかった家系の脚本を考える手がかりがあるかもしれません。
気づいた脚本を、そのまま次の世代へ渡す必要はありません。
人間関係、夫婦関係、親子関係。
自分なりに努力しているのに、なぜか似たような問題が繰り返される。
そこには、自分一人の性格だけを見ていても気づきにくい背景があるかもしれません。
家系心理学では、家族の中で受け継がれてきた価値観や役割、無意識の関係のパターンに目を向けていきます。
なぜ同じ問題を繰り返してしまうのか。
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