「人間は眠ったまま生きている」
この言葉を聞いたとき、少し怖いと感じる人もいるかもしれません。
けれど、ここでいう「眠り」とは、夜に眠ることではありません。
自分では人生を選んでいるつもりなのに、実際には無意識や習慣によって生きている状態。
20世紀の神秘思想家、ゲオルギー・グルジェフは、人間の多くは「眠っている」と考えました。
彼の思想には、
「現代人は眠りの中で生き、眠りの中で生まれ、眠りの中で死ぬ」
という趣旨の言葉があります。
では、私たちは一体、何から目覚める必要があるのでしょうか。
私たちは毎日、たくさんの選択をしています。
何を食べるか。
誰と付き合うか。
どんな仕事をするか。
結婚するか。
離婚するか。
どんな人生を生きるか。
だから当然、
「自分の人生は、自分で決めている」
と思っています。
ところが少し深く見ていくと、本当にそうなのか疑問が出てきます。
例えば、
人から嫌われるのが怖い。
つい我慢してしまう。
頼まれると断れない。
同じような相手と恋愛してしまう。
なぜかお金が残らない。
仕事を頑張りすぎてしまう。
自分を責めてしまう。
こうしたことを、
「自分の性格だから」
と思っている人は少なくありません。
しかし、本当にそれは「自分」なのでしょうか。

人生を長く見ていると、不思議なことがあります。
登場人物は変わっているのに、同じような問題が繰り返されるのです。
会社を変えても人間関係で悩む。
恋人を変えても同じような別れ方をする。
環境を変えても、なぜかまた苦しくなる。
知識を増やしても、自分を変えても、しばらくすると元に戻ってしまう。
ここには、
意識では気づいていない「人生のパターン」
が存在しています。
グルジェフがいう「眠り」とは、こうした無意識の反応によって生きている状態とも捉えることができます。
誰かに批判される。
腹が立つ。
落ち込む。
自分を責める。
また頑張る。
そして疲れる。
ほとんど自動反応です。
本人は「自分で考えた」と思っています。
しかし実際には、
過去の経験、親から受け取った価値観、社会の常識、恐怖、習慣などが反応しているだけかもしれません。
ここに非常に重要な視点があります。
人間の問題は、
「知らないこと」
だけではありません。
もっと深い問題があります。
それは、
自分が眠っていることに気づいていないことです。
眠っている人に、
「あなたは眠っていますよ」
と言っても、
「いや、起きています」
と答えるでしょう。
人生でも同じことが起こります。
「これは私の考えです」
「私はこういう性格です」
「私はこういう人間です」
と思っている。
ところが、その考えをさらに遡っていくと、
父親の価値観だった。
母親の生き方だった。
祖父母の経験から生まれた恐怖だった。
家系の中で何度も繰り返されてきた考え方だった。
ということがあります。
つまり、
「自分だと思っているもの」の中には、自分以外から受け継いだものがたくさん存在しているのです。

この考え方は、グルジェフだけのものではありません。
仏教には、
「無明」
という言葉があります。
単純に「知識がない」という意味ではありません。
自分自身や世界の本当の姿が見えていない状態です。
つまり、
見えていると思っている。
分かっていると思っている。
自分で選んでいると思っている。
しかし実際には見えていない。
この状態から目覚めていくことが、仏教でも非常に重要だと考えられてきました。
表現は違いますが、
グルジェフの「眠り」と仏教の「無明」には、共通する部分があります。
「目覚め」という言葉を聞くと、
悟りを開く。
特殊な能力が身につく。
宇宙とつながる。
そんなイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし、もっと現実的に考えることもできます。
目覚めとは、
自分を動かしているものに気づくことです。
なぜ私はここで怒ったのか。
なぜ私は断れなかったのか。
なぜ私はまた同じ相手を選んだのか。
なぜ私はいつも自分を犠牲にするのか。
なぜ私は成功しそうになると止まってしまうのか。
こうした問いを持つこと。
これが「眠り」から抜け出す最初の一歩です。
そして、自分自身を深く見ていくと、
個人だけでは説明できないことがあります。
例えば、
祖父も父も仕事人間だった。
母も祖母も夫婦関係で苦労している。
家系の中で離婚が続いている。
同じ年代に病気や大きな問題が起きている。
なぜか長男だけが家族の問題を背負っている。
こうした繰り返しです。
人は遺伝子だけを受け継いでいるわけではありません。
生き方。
価値観。
恐怖。
我慢の仕方。
人間関係のパターン。
お金に対する考え方。
「こう生きなければならない」という無意識のルール。
そうしたものも、家庭環境や世代間の影響を通して受け継がれていきます。
だから人生の問題を考えるとき、
「自分の性格」
だけを見るのではなく、
「この生き方は、どこから始まったのだろう」
と問い直してみる。
すると、今まで見えなかったものが見えてくることがあります。

グルジェフの言葉が突きつけているものは、とてもシンプルです。
人間は生きています。
しかし、
本当に「目覚めて」生きているのか。
毎日起きて、
仕事をして、
食事をして、
人と会い、
スマートフォンを見て、
一日が終わる。
それを何十年も繰り返して人生が終わる。
それだけなら、
肉体は起きていても、意識は眠ったままだった。
ということもあるのかもしれません。
人生で本当に怖いことは、
失敗することでも、
遠回りすることでもありません。
自分の人生だと思って生きていたものが、最後まで誰かから受け継いだ脚本だったことに気づかないことです。
だから、ときどき自分自身に問いかけてみてください。
「これは本当に、私が望んでいる人生なのか。」
「この考えは、本当に私の考えなのか。」
「私は何を恐れて、この選択をしているのか。」
「この生き方は、家族の誰かと似ていないだろうか。」
そして、
「もし何の脚本もなかったら、自分はどう生きたいのか。」
この問いを持った瞬間から、
眠りの中に小さな光が入り始めます。
目覚めるとは、新しい自分になることではありません。
もしかすると、
自分ではないものを一つずつ手放し、本来の自分に還っていくことなのかもしれません。
なぜか同じ悩みを繰り返してしまうのか。
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