久しぶりに、何も予定のない休日。
仕事も休み。家事もひと段落して、今日は自分の好きなことをして過ごそうと思っていた。
ところが、いざ時間ができると、なぜか落ち着かない。
「こんなことをしていていいのかな」
「ほかにやるべきことがあるんじゃないかな」
誰かに注意されたわけでもないのに、何もしていない自分に罪悪感を覚えてしまう。
結局、休むつもりだったのに掃除を始めたり、仕事のメールを確認したりして、一日が終わる。
そして夜になると、また思うのです。
「どうして私は、こんなに休むのが下手なんだろう」
性格の問題だと思っているかもしれません。真面目すぎるのだろう、心配性なのだろう、もっと気楽に考えられたらいいのに、と。
でも、その「休んでいると落ち着かない」という感覚は、いつから自分の中にあるのでしょうか。
子どもの頃、母親が何もせずにくつろいでいる姿を、どれくらい見たことがあるでしょう。
父親は、仕事を休むことについて何と言っていたでしょうか。
もし家族の誰もが、いつも忙しく働き、「休んでいる暇があったら何かしなさい」と言う家庭だったなら。
自分でも気づかないうちに、休むことへの罪悪感を身につけていた可能性があります。
人生で繰り返す悩みの中には、自分自身の経験だけでなく、親や家族から受け取ってきた価値観、物事の捉え方、不安への反応が関係しているものがあります。
ただし、すべての悩みの原因が家系にあるという意味ではありません。
大切なのは、今の自分を苦しめている考え方が、どこで形づくられたのかを知ることです。
もしかすると、ずっと自分の性格だと思っていたものが、家族の中で当たり前になっていた考え方なのかもしれません。
人は何か問題が起きると、その原因を現在の自分の中に探そうとします。
人間関係がうまくいかなければ、自分のコミュニケーション能力が足りないのだと思う。
お金に不安があれば、もっと稼がなければいけないと考える。
人に頼ることが苦手なら、自分は人を信用できない性格なのだろうと思う。
もちろん、現在の行動や生活環境を見直すことは大切です。
しかし、目の前の問題だけを見ていると、なぜ自分がいつも同じ反応をするのか、分からないことがあります。
例えば、職場で頼まれごとを断れない人がいるとします。
仕事が忙しくても、「これをお願いできる?」と言われると、反射的に「大丈夫です」と答えてしまう。
本当は大丈夫ではありません。
それでも、断るという選択肢が浮かんでこないのです。
周囲からは、責任感の強い人だと思われているかもしれません。しかし本人は、いつも余裕がなく、なぜ自分ばかりが忙しいのだろうと悩んでいる。
ここで考えたいのは、仕事の断り方だけではありません。
なぜ、その人にとって「断ること」が、これほど難しいのかということです。
子どもの頃、親の期待に応えることが当たり前だったのかもしれません。
頼まれたことを断ると、不機嫌になる家族がいたのかもしれません。
あるいは、家庭の中で「人に迷惑をかけてはいけない」と何度も教えられていたのかもしれません。
そうした経験が重なると、人に頼まれたら引き受けることが、自分にとって自然な行動になっていく場合があります。
大人になった今は、断っても問題がない場面でさえ、心の中では昔と同じ不安が起きている。
そんな可能性もあるのです。
親から子どもへ伝わるものというと、直接教えられた言葉やしつけを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、家族の影響は、言葉で教えられることだけではありません。
親が何を怖れていたのか。何を諦めてきたのか。どのような場面で安心し、どのような場面で不安を感じていたのか。
子どもは、そうした親の姿を日常の中で見ています。
例えば、家族で外食するたびに、母親が値段を気にしていたとします。
「そんな高いものを頼まなくてもいいでしょう」
「贅沢していたら、いつか困るよ」
その家庭では、実際に経済的な苦労があったのかもしれません。
だから母親にとって、お金を慎重に使うことは、生活を守るための大切な知恵だったのでしょう。
ところが、子どもが大人になり、十分な収入を得るようになっても、自分のためにお金を使うことに強い抵抗を感じる場合があります。
欲しいものを買おうとすると、なぜか後ろめたい。
旅行に行こうとしても、「こんなことにお金を使っていいのだろうか」と迷う。
現在の生活では無理のない支出であっても、心の中では昔から聞いてきた言葉が繰り返されているのかもしれません。
心理学や家族研究では、このように家庭の中でお金に対する価値観や行動を学ぶ過程を「金融社会化(Financial Socialization)」として研究しています。
2020年に発表された研究レビューでは、親がお金をどのように扱っているかを子どもが見ること、親子でお金について話すこと、実際にお金を使う経験をすることなどが、金融社会化に関係する要素として整理されています。
もちろん、お金に対する考え方は、家庭の影響だけで決まるわけではありません。
それでも、自分にとって当たり前の金銭感覚が、家庭で見聞きしてきたことと関係している可能性はあるのです。
そして、これはお金に限った話ではありません。
人との距離の取り方、失敗したときの反応、助けを求めることへの抵抗、幸せになることへの遠慮。
そうしたものにも、家庭で学んだ考え方が関係している場合があります。
ここで、少し違う問いを考えてみてください。
「あなたの両親は、何を怖れていたのでしょうか」
失敗することだったでしょうか。
お金がなくなることだったでしょうか。
人から悪く思われることだったでしょうか。
それとも、家族が離れていくことだったでしょうか。
例えば、父親が新しいことに挑戦するたびに、「失敗したらどうするんだ」と言う人だったとします。
子どもは、その言葉を聞きながら成長します。
やがて大人になり、新しい仕事に挑戦する機会が訪れたとき、心の中で同じ言葉が浮かんでくる。
「失敗したらどうしよう」
本当は挑戦してみたいのに、失敗したときのことを考えると動けない。
その不安は、今の自分にとって現実的なものなのでしょうか。
それとも、過去の家族にとって必要だった警戒心が、今も判断の基準になっているのでしょうか。
2023年に発表された、親の恐怖反応を子どもが見て学ぶ過程についての研究レビューでは、生後30か月までの乳幼児が、親の怖がる反応を見たあと、対象への恐怖や回避を示すことが報告されています。
これは幼い子どもを対象とした研究であり、大人になってからの不安がすべて親から伝わったことを示すものではありません。
しかし、子どもが親の言葉だけでなく、表情や反応からも危険を学ぶ場合があることを示しています。
人間にとって、不安は必ずしも悪いものではありません。危険を避け、生き延びるために必要な働きでもあります。
ただ、かつての家庭では必要だった警戒心が、今の生活では強すぎる場合もあるのです。
そのことに気づくと、不安との向き合い方も変わってきます。
家系心理学では、家族の中で繰り返される価値観や役割、関わり方を「家系の脚本」という視点から捉えます。
ただ、ここで重要なのは、親と子どもがまったく同じ人生を歩むということではありません。
祖父母と両親、そして自分とでは、生きている時代も、生活環境も違います。
それでも、何かを選択するときの判断基準に、似たものが見つかることがあります。
例えば、祖父母の世代では、生活を維持するために働くことが最優先だった。
両親の世代では、安定した会社に勤め、失敗しないことが大切だった。
そして自分の世代では、本当はやりたいことがあるのに、安定した生活を手放すことが怖くて動けない。
一見すると、三世代とも違う問題を抱えています。
しかし、そこには「生活の安定を失ってはいけない」という共通した価値観があるかもしれません。
もちろん、安定を大切にすること自体は悪いことではありません。
問題は、その価値観によって、自分が本当に望んでいることを考えられなくなっている場合です。
家系を調べるときは、似た出来事だけを探すのではなく、その家族が何を大切にし、何を怖れてきたのかに目を向けてみてください。
そこで見えてきたものは、必ずしも変えなければならないものではありません。
今の自分にも必要な知恵かもしれませんし、もう役割を終えた考え方かもしれません。
それを区別することに意味があります。
ここで、一つ注意しておきたいことがあります。
家族の中に似た価値観が見つかったとしても、それだけで今の悩みの原因が分かったとは言えません。
例えば、お金の不安が強い人がいたとします。
その人の親もお金の心配をしていたからといって、現在の不安がすべて家庭での学習から生じたとは限りません。
今の収入が不安定なのかもしれません。家族の介護費用がかかっているのかもしれません。物価の上昇や将来の生活に、現実的な心配があるのかもしれません。
また、人に頼れないことについても、家庭での経験だけではなく、これまでに助けを求めて断られた経験や、現在の職場環境などが影響する場合があります。
つまり、悩みには現在の状況と過去の経験の両方が関係していることがあるのです。
家系の影響という説明だけで、現実の問題を見落としてはいけません。
家族の病歴が気になるなら医療的な情報を確認する必要がありますし、生活が苦しいなら経済的な対策が必要です。暴力や支配のある人間関係であれば、安全の確保が優先されます。
家系の脚本とは、すべての問題を一つの理由で説明するためのものではありません。
現在の自分が何を変えられるのかを考えるために、過去の家族関係も一つの手がかりとして見るものです。
もし今、同じ悩みを繰り返していると感じているなら、紙を一枚用意してみてください。
そこに、次の四つを書き出します。
① 今、何に悩んでいるのか
例えば「人に頼みごとができない」「休んでいると罪悪感がある」「失敗が怖くて挑戦できない」。
できるだけ具体的に、今の生活で起きていることを書きます。
② そのとき、心の中でどんな言葉が浮かぶのか
「迷惑をかけてはいけない」
「頑張っていない自分には価値がない」
「失敗したら終わりだ」
普段は意識していない、自分の中の当たり前を言葉にしてみます。
③ その言葉を、子どもの頃にも聞いたことがないか
両親が同じような言葉を使っていなかったでしょうか。
親自身が、その考え方に従って生きていなかったでしょうか。
覚えていない場合は、無理に答えを探す必要はありません。
④ その考え方は、今の自分にも必要なのか
ここが最も重要です。
昔の家庭では必要だった考え方が、今の自分にも必要とは限りません。
「人に迷惑をかけてはいけない」という言葉を大切にしながらも、「困ったときには助けを求めていい」と考えることはできます。
「失敗しないように慎重に行動する」という知恵を残しながら、「小さな失敗は経験として受け止める」という選択もできます。
過去の考え方をすべて否定するのではなく、今の自分に合う形に変えていくのです。
家系を振り返ると、親の生き方を以前とは違う角度から見るようになることがあります。
子どもの頃は、どうして父親があんなに仕事ばかりしていたのか、理解できなかった。
でも、祖父母の暮らしを知ることで、父親が生活の安定を何より大切にしていた理由が少し分かるかもしれません。
母親がなぜ自分のためにお金を使わなかったのか。なぜ楽しむことよりも、家族のことを優先していたのか。
その背景に、母親自身の経験や育った時代が関係していた可能性もあります。
ただ、親の事情を理解できたからといって、同じ生き方を選ばなければならないわけではありません。
親を尊敬していても、違う価値観を持っていい。
親の苦労を知っていても、自分まで同じ苦労をする必要はありません。
そして、親から傷つけられた経験があるなら、その傷を無理に許す必要もありません。
過去の背景を理解することと、自分がこれからどう生きるかは、別の問題だからです。
家系を調べる意味は、親や祖父母に自分の人生の答えを求めることではありません。
自分が受け取ってきたものを理解したうえで、今の自分が大切にしたいものを選ぶことです。
親から受け取った価値観や、家庭で身につけた関わり方が影響している可能性はあります。ただし、現在の環境や本人の経験なども関係するため、すべてを家系の影響だけで説明することはできません。
親子に似た不安や反応が見られる場合、世代間での学習や共通の生活環境などが関係している可能性があります。ただし、不安の内容が似ているだけでは、世代間連鎖が原因だとは判断できません。
無理に過去の記憶を探す必要はありません。まず、今どんな場面で悩みが強くなるのか、そこでどんな考えが浮かぶのかを記録することから始められます。生活への支障が大きい場合は、心理職などに相談する方法もあります。
気づくだけですべてが変わるとは限りません。しかし、今まで無意識に選んでいた反応に気づけば、別の行動を考える手がかりになります。今の状況に必要な具体策と組み合わせることが大切です。
自分の人生を振り返ったとき、これまでずっと同じことで悩んできたように感じることがあります。
人に頼れない。
失敗することが怖い。
お金があっても安心できない。
何かをしていないと、自分に価値がないように感じる。
そうした気持ちは、長い間、自分自身の性格だと思ってきたものかもしれません。
けれども、もしその考え方が、子どもの頃に暮らしていた家庭で当たり前だったとしたら。
もし親も、同じような不安を抱えながら生きていたとしたら。
少しだけ、自分を見る目が変わるかもしれません。
今まで「私はこういう性格だから」と思っていたことが、「こう考えるようになった背景があるのかもしれない」という問いに変わるからです。
ただし、過去の背景が分かったとしても、現在の問題が自動的に解決するわけではありません。
大切なのは、その考え方をこれからも持ち続けたいのか、自分で選び直すことです。
親が大切にしてきた慎重さは、今の自分にも役立つかもしれません。
でも、必要以上に失敗を怖れることは、少しずつ変えていきたいと思うかもしれません。
親から受け取った責任感は、大切にしたい。
でも、何でも自分一人で抱え込む生き方は、もう続けなくてもいい。
そんなふうに、受け継いできたものを見直すことができます。
家族の歴史を変えることはできません。
親が歩んできた人生も、祖父母が経験してきたことも、なかったことにはできません。
それでも、過去から受け取った考え方を、これからも同じ形で持ち続ける必要はないのです。
もし今、何度も同じところで悩んでいるなら、一度こう問いかけてみてください。
「この悩みは本当に私から始まったものなのだろうか。それとも、私が生まれる前から家族の中にあった考え方が、今の私にも影響しているのだろうか」
その問いに、すぐ答えが出るとは限りません。
家族のことを調べても、何も分からない場合もあるでしょう。
でも、答えが見つからなければ変われない、というわけではありません。
今の自分がどんな考え方を大切にし、どんな選択をしていくのか。
それは、過去の家族の生き方とは別に考えることができます。
悩みが始まった場所と、その悩みをこれからどう扱うかを決める場所は、同じでなくてもいいのです。
これまで自分を守ってきた考え方に感謝しながら、今の自分には必要のないものを見直していく。
それが、自分の人生を自分の意思で生きていくための、一つの出発点になるのかもしれません。
人間関係、夫婦関係、お金、仕事。
自分なりに考え方を変え、努力しているのに、気づくとまた同じことで悩んでいる。
その背景には、今の自分だけを見ていても気づきにくい、家族や家系の中で身につけた考え方が関係している場合があります。
家系心理学では、こうした無意識の人生パターンを「家系の脚本」という視点から読み解いていきます。
今回、その背景を見つめ直すための特別動画をご用意しました。
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自分の悩みを、今までとは少し違う視点から見つめ直したい方は、一つのきっかけとしてご活用ください。