結婚前、友人からこんなことを言われたことはないでしょうか。
「今度の人、お父さんとは全然違うタイプだね」
自分でも、そう思っていた。
父親は無口で、あまり家族の話を聞かない人だった。でも、結婚相手に選んだ男性は、よく話を聞いてくれる。穏やかで、何でも相談できる。
父親には感じられなかった安心感を、この人となら感じられると思っていた。
ところが、結婚して数年が経った頃、思いがけない瞬間が訪れます。
休日の予定について話していたとき、夫がこちらの話を遮って言ったのです。
「そんなこと、いちいち相談しなくてもいいだろう」
その言葉を聞いた瞬間、なぜか胸がざわついた。
内容そのものよりも、言い方が気になった。少し面倒くさそうな声の調子。こちらの話を聞かずに結論を出そうとする態度。
子どもの頃、父親から同じようなことを言われた記憶がよみがえります。
「この人、父に似ている」
それまで気づかなかった夫の一面が、急にはっきりと見えてくる。
そして考えてしまうのです。
「父親のような人とは結婚したくなかったのに、どうして私は似た人を選んでしまったのだろう」
父親に似た人と結婚したと感じる理由には、実際に似た特徴を持つ相手を選んだ可能性だけでなく、過去の父親との経験によって、夫の特定の言動に敏感になっていることや、結婚後に初めて見えてくる一面が関係している場合があります。
大切なのは、父親と夫が似ているという感覚だけで、結婚相手を選んだ原因を決めつけないことです。
そして、もう一つ。
父親に似た部分があることと、今の夫がどのような人なのかは、必ずしも同じではありません。
「女性は父親に似た男性を好きになる」
そんな話を聞いたことがあるかもしれません。
心理学でも、子どもの頃に接していた親の特徴が、その後のパートナー選びに影響するのかという研究が行われてきました。
ただし、父親に似た男性を必ず選ぶという法則が確認されているわけではありません。
例えば、2012年に発表された研究では、70人の異性愛者を対象に、パートナーの顔と異性の親の顔が似ているかどうかが調べられました。
その結果、女性のパートナーと父親の顔については、明確な類似性が確認されませんでした。
もちろん、これは顔立ちについての研究であり、性格や話し方、価値観まで調べたものではありません。
それでも、「女性は必ず父親と似た男性を選ぶ」と単純に説明することには慎重であるべきでしょう。
実際の結婚相手選びには、価値観、生活環境、出会いの機会、経済状況、相手への信頼感など、さまざまな要素が関係します。
父親との関係が、人生のすべての恋愛や結婚を決定するわけではないのです。
では、なぜ結婚後になって「父に似ている」と感じることがあるのでしょうか。
人は、相手に魅力を感じる理由を、すべて言葉で説明できるわけではありません。
話す速さ、声の大きさ、沈黙の取り方、物事を判断するときの態度。
そうした小さな特徴が、相手と一緒にいるときの感覚に関係することがあります。
例えば、子どもの頃から父親が家族の予定を決めていた家庭で育った女性がいたとします。
旅行先も外食する店も、父親が決めることが多かった。
大人になり、交際相手が率先して予定を立ててくれると、「頼りになる人だな」と感じるかもしれません。
自分で決めることに慣れていなければ、相手が決めてくれることに安心する場合もあるでしょう。
しかし結婚後、子育てや住まいのことまで夫が一人で決めようとしたら、どう感じるでしょうか。
交際中は頼もしさだと思っていた特徴が、結婚後には「私の意見を聞いてくれない」という不満に変わるかもしれません。
相手の特徴そのものは、最初から存在していた可能性があります。
ただ、その特徴をどう受け止めるかは、関係の段階や生活状況によって変わってくるのです。
ここで考えたいのは、慣れ親しんだ関わり方と、自分が本当に心地よいと感じる関わり方は、必ずしも同じではないということです。
子どもの頃から見慣れていたからといって、大人になった自分にとって望ましいとは限りません。
逆に、父親と似た長所があること自体は、何も問題ではありません。
重要なのは、その特徴が今の二人の暮らしの中で、どのように現れているかです。
交際中と結婚後では、二人が向き合う問題の種類が変わります。
交際しているときには、会う時間を決めたり、一緒に食事をしたり、休日を楽しんだりすることが中心だったかもしれません。
もちろん、交際中にも意見の違いや問題はあります。
しかし結婚すると、日々の生活を共同で営むようになります。
生活費をどう分担するのか。住まいをどうするのか。子どもをどう育てるのか。親の介護が必要になったとき、どう協力するのか。
楽しい時間を共有するだけでなく、簡単には答えの出ない問題に向き合う場面が増えていきます。
その中で、交際中には気づかなかった相手の考え方が見えてくることがあります。
例えば、夫は普段とても優しい人だった。
しかし、大きな出費について相談すると、「お金のことは自分に任せてほしい」と言う。
その言葉を聞いて、妻は子どもの頃を思い出す。
父親も、家計について母親が意見を言うことを好まなかった。
そんな共通点に気づく場合があります。
ここで初めて、夫が父親に似ているように感じられるのです。
しかし、それは必ずしも父親と似た男性を無意識に探していた証拠ではありません。
結婚生活という新しい環境の中で、それまで見えていなかった相手の特徴が現れた可能性もあります。
父親に似た人を選んだのか。それとも、結婚後に父親と似た一面に気づいたのか。この二つは分けて考える必要があります。
もう一つ、見落とされやすいことがあります。
それは、父親との経験によって、夫の特定の言動が強く印象に残る場合があることです。
例えば、父親がいつも仕事を優先していた家庭で育ったとします。
家族で出かける約束をしていても、仕事が入れば予定が変更になる。
子どもだった自分は、父親に一緒にいてほしかった。でも、その気持ちを伝えても「仕事だから仕方ない」と言われる。
そんな経験を繰り返していたとします。
大人になって結婚した夫は、家族との時間を大切にしてくれる人でした。
普段は家事にも協力的で、休日には一緒に出かける。
ところが、ある日、仕事の都合で予定が変更になった。
その瞬間、強い悲しさや怒りを感じることがあります。
「やっぱり、この人も父と同じなんだ」
そう感じるかもしれません。
しかし、実際には父親と夫の行動が、すべて同じとは限りません。
父親は何度も約束を破っていたかもしれませんが、夫は普段ほとんど予定を守っているのかもしれない。
大切なのは、感じた悲しさを否定することではありません。
過去の経験によって、現在の出来事がより強く心に響いている可能性を考えることです。
だからこそ、夫に父親と似たものを感じたときには、一度分けてみてほしいのです。
今、夫が実際にしたことは何か。
それによって自分は何を感じたのか。
そして、その気持ちには、子どもの頃の経験も重なっていないだろうか。
この違いが分かると、今の相手に本当に伝えたいことが見えやすくなる場合があります。
では、育った家庭での経験が、成人後の恋愛や夫婦関係に影響することは、研究でも確認されているのでしょうか。
2000年に『Journal of Personality and Social Psychology』で発表された縦断研究では、193人の若者とその交際相手を対象に、子どもの頃の家庭環境と成人後の恋愛関係の関連が調べられました。
その結果、親が温かく、子どもに関わる養育行動を示していたことは、成人後の本人がパートナーに対して温かく協力的に接する行動と関連していました。
また、2008年の別の縦断研究では、14歳のときの家族内コミュニケーションと、約17年後の夫婦間コミュニケーションとの関連が報告されています。
ただし、これらの研究が示しているのは、育った家庭の経験と後の親密な関係との関連です。
女性が必ず父親に似た男性を選ぶことを証明したものではありません。
ここは区別する必要があります。
父親と夫の性格が似ていることと、自分が家庭で身につけた人との関わり方が、今の夫婦関係に影響していることは、別の問題です。
家系心理学では、家族の中で身につけた関係のパターンを「家系の脚本」という視点から読み解きます。
しかし、家系の脚本という独自の考え方そのものが、すべての結婚相手選びの原因として科学的に実証されているわけではありません。
家族の歴史は、今の自分を理解するための手がかりにはなりますが、未来を決める運命表ではないのです。
「父親に似た男性を選ぶ」という話を聞くと、父親との関係が悪かった人の問題だと思うかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
父親を尊敬していた人が、その長所に似た部分を持つ相手に魅力を感じることもあるでしょう。
仕事に誠実だった父親。家族との約束を大切にしていた父親。困ったときに頼りになった父親。
そんな姿を見て育った人が、誠実さや責任感を結婚相手に求めることは、自然なことです。
一方で、父親との関係がつらかった人は、父親とは正反対の男性を選びたいと思う場合があります。
父親が無口だったから、よく話す人がいい。
父親が家庭にいなかったから、家族との時間を大切にする人がいい。
父親が厳しかったから、穏やかな人がいい。
こうした希望を持つこと自体は、何も問題ありません。
ただ、結婚相手を考えるとき、いつも父親が比較の基準になっているとしたら、一度考えてみたいことがあります。
「父とは違う人」という条件だけで、本当に自分が望んでいる関係を十分に表現できているのでしょうか。
例えば、父親が何でも決める人だったので、自分の意思を尊重してくれる男性を選んだとします。
それでも、夫が自分から提案することが少なければ、「何も決めてくれない」と不満を感じることもあるでしょう。
本当に望んでいたのは、父親と反対の男性だったのでしょうか。
それとも、二人で相談しながら物事を決められる関係だったのでしょうか。
この違いは、小さいようで大きなものです。
父親とは違う人生を生きることと、自分が望む人生を生きることは、必ずしも同じではありません。
夫の言動に父親と似たものを感じたとき、その印象を無理に消す必要はありません。
けれども、「父親と同じだ」と決めつける前に、少しだけ視点を増やしてみてください。
例えば、紙に三つの欄をつくります。
最初の欄には、父親と夫が似ていると感じる具体的な言動を書きます。
「話を途中で遮る」「仕事を優先する」「自分で結論を出そうとする」。
次の欄には、父親と夫が違うと感じる部分を書きます。
「夫はあとから話し合いに応じる」「子どもの行事には参加する」「謝ることができる」。
そして最後の欄には、今の自分が夫に何を望んでいるのかを書きます。
「相談するときは最後まで話を聞いてほしい」
「予定が変わるときは早めに教えてほしい」
「二人で決めることは、一緒に考えたい」
こうして整理すると、父親との共通点だけを見ていたときには気づかなかったことが見える場合があります。
もちろん、違いを書いたからといって、問題のある言動がなくなるわけではありません。
夫に改善してほしいことがあるなら、その問題には具体的に向き合う必要があります。
ただ、「父に似ている」という大きな印象だけでは、何を変えてほしいのかが伝わりにくい場合があります。
今の相手に求めていることを言葉にすることで、話し合うべき問題が明確になります。
父親との関係で、今も心に残っていることがあるかもしれません。
もっと話を聞いてほしかった。
家族との時間を大切にしてほしかった。
自分の意見を認めてほしかった。
そうした思いを抱えながら大人になった人が、結婚後、夫の言動によって昔の悲しさを思い出すことがあります。
それ自体を責める必要はありません。
ただ、夫は父親本人ではありません。
過去に父親から得られなかったものを、夫がすべて埋めてくれるとも限りません。
今の夫婦関係では、夫が実際にしていることと、それによって自分が感じることを分けて伝えることが大切です。
例えば、「あなたはお父さんと同じで、いつも私の話を聞いてくれない」と言うよりも、次のように伝えられるかもしれません。
「さっき私が話している途中で結論を言われて、少し悲しかった。私は最後まで話を聞いてほしかったんだ」
ここでは、過去の父親との比較ではなく、今の二人の間に起きたことを伝えています。
相手が安全に話し合える人であれば、そうした言葉が関係を見直すきっかけになることもあります。
ただし、相手が意図的に威圧したり、脅したり、暴力をふるったりする場合は別です。
そのような行動を、自分が父親に似た人を選んだせいだと考える必要はありません。
相手の行為の責任は相手自身にあります。危険を感じる場合には、無理に話し合わず、安全を優先して専門機関に相談してください。
家族の歴史を調べると、祖父母や両親の結婚生活について、これまで知らなかったことに気づく場合があります。
祖父は仕事一筋だった。
父親も、家庭より仕事を優先することが多かった。
そして今の夫も、仕事を大切にしている。
こうした共通点が見つかることもあるでしょう。
しかし、仕事を大切にするという特徴が似ていても、それだけで同じ夫婦関係になるわけではありません。
家族との約束をどう考えるのか。困ったときに協力できるのか。意見が違ったときに話を聞けるのか。
そうした具体的な関わり方には違いがあるかもしれません。
家系心理学では、一人ひとりの特徴だけでなく、家族の中でどのような価値観や関わり方が続いてきたのかにも目を向けます。
ただ、その目的は、父親や夫を同じ種類の人間として分類することではありません。
これまでの家族の歴史を知ることで、今の自分が何を当たり前だと思っているのか、どんな関係を望んでいるのかを理解するためです。
父親と似ているところがあるからといって、必ずしも悪いわけではありません。
反対に、父親と違う性格だからといって、必ず幸せな結婚生活になるわけでもありません。
大切なのは、父親との共通点の数ではなく、今の夫婦が互いを尊重し、安心して暮らせる関係を築けているかどうかです。
必ずしもそうとは言えません。親に似た相手への好みを研究したものはありますが、結果は一貫していません。2012年の研究では、女性のパートナーと父親の顔に明確な類似性は確認されませんでした。性格や価値観についても、すべての女性に当てはまる法則があるとは言えません。
あります。ただし、その理由が必ず父親との関係にあるわけではありません。相手の特徴に魅力を感じた可能性もあれば、結婚後に父親と似た一面に気づいた可能性もあります。実際にどのような共通点があるのかを整理することが役立ちます。
結婚後に生活上の責任や問題が増えることで、交際中には見えなかった特徴が現れる場合があります。また、父親との経験によって、夫の似た言動が強く印象に残ることも考えられます。夫の性格が父親に変わったと決めつける必要はありません。
父親に似ているかどうかだけで結婚相手を判断するより、相手の具体的な言動や価値観、意見が違ったときの対応、自分の気持ちを尊重してくれるかなどを確認することが大切です。父親と似た長所があること自体は問題ではありません。
家族の中で大切にされてきた価値観や、親密な関係について学んできたことを振り返る手がかりにはなります。
結婚するとき、誰もが自分なりの希望を持っているでしょう。
一緒にいて安心できる人がいい。
何でも話せる人がいい。
家族を大切にしてくれる人がいい。
そんな思いを持って結婚したはずなのに、年月が経つにつれて、思い描いていた関係とは違うと感じることがあります。
そのとき、夫の中に父親と似た一面を見つけると、自分の選択が間違っていたように感じるかもしれません。
でも、結婚した相手に父親と似た部分があることだけで、その結婚が間違いだったとは言えません。
人には、よい面もあれば、難しい面もあります。
交際しているときには魅力に感じていた特徴が、生活を共にする中で負担になることもあるでしょう。
反対に、結婚後の経験を通して、相手の新しい長所に気づくこともあります。
大切なのは、父親と同じか違うかという比較だけで、今の相手を判断しないことです。
父親に言えなかったことがあるなら、その思いを理解していくことも大切です。
そして今、夫に伝えたいことがあるなら、夫との関係の中で向き合う必要があります。
過去の親子関係と、現在の夫婦関係。
二つは影響し合う可能性がありますが、同じものではありません。
家系の歴史を知る意味も、ここにあるのかもしれません。
父親がどんな人だったのかを知ること。
母親がどんな結婚生活を送っていたのかを振り返ること。
そして、自分はどんな関係に安心し、何を大切にして生きたいのかを考えること。
それらは、今の結婚生活を見つめ直すための手がかりになります。
もし夫の言動に父親の面影を感じたら、一度こう問いかけてみてください。
「私は今、目の前の夫を見ているのだろうか。それとも、父親との過去の経験を通して、夫を見ているのだろうか」
どちらか一方だけとは限りません。
夫に実際の問題があり、そこに過去の記憶も重なっていることだってあるでしょう。
大切なのは、それを区別しながら、今の自分が望む関係を考えていくことです。
父親に似た人を選んだかどうかという答えが見つからなくても、今の結婚生活について考えることはできます。
そして、過去の家族関係を理解することは、必ずしも同じ人生を繰り返すことを意味しません。
過去の人間関係が、今の自分に影響していることはあっても、これからどんな関係を築いていくかまで決めているわけではないのです。
自分が本当に望んでいるものは何なのか。
その問いを持つことが、今の関係を見直していく始まりになるのかもしれません。
恋愛や結婚だけでなく、親子関係、仕事、人間関係。
「今度こそ違う選択をしたい」と思っていても、気づけば同じような問題に悩んでいることがあります。
そこには、自分一人の性格や努力だけでは気づきにくい、家族や家系の中で身につけた価値観や関わり方が影響している場合があります。
家系心理学では、こうした無意識の人生パターンを「家系の脚本」という視点から読み解いていきます。
今回、その背景を見つめ直すための特別動画をご用意しました。
「繰り返す人生パターンの正体がわかる特別動画(ワーク付き)」
プロフィールのLINEに登録していただくと、無料でご覧いただけます。
自分でも気づかなかった考え方や人生のパターンを、少し違う角度から見つめ直すきっかけとしてご活用ください。
1.親に似たパートナーを選ぶ傾向について
Marcinkowska, U. M., & Rantala, M. J. (2012). Sexual Imprinting on Facial Traits of Opposite-Sex Parents in Humans. Evolutionary Psychology, 10(3), 621–630.
https://doi.org/10.1177/147470491201000318
2.子どもの頃の家庭環境と成人後の恋愛関係について
Conger, R. D., Cui, M., Bryant, C. M., & Elder, G. H., Jr. (2000). Competence in Early Adult Romantic Relationships: A Developmental Perspective on Family Influences. Journal of Personality and Social Psychology, 79(2), 224–237.
https://doi.org/10.1037/0022-3514.79.2.224
3.育った家庭と成人後の夫婦関係について
Whitton, S. W., et al. (2008). Prospective Associations From Family-of-Origin Interactions to Adult Marital Interactions and Relationship Adjustment. Journal of Family Psychology, 22(2), 274–286.
https://doi.org/10.1037/0893-3200.22.2.274
※参考文献はパートナー選択や家族内コミュニケーションについての研究です。家系心理学の「家系の脚本」という独自の説明枠組みが、これらの研究によって直接実証されたという意味ではありません。